日本企業への進言書

日本企業は、今後発展させるべき産業の分野を明らかにし、明治の殖産興業を、もう一度やり直す程の気概を以って事に当たらなければなりません。

一次産業

今村奈良臣名誉教授が指摘しているように、付加価値は、開発成功の重要な要素だ。

農林水産省はグローバル・フードバリューチェーン戦略を発表した。食品開発においては物事を俯瞰しなければならない。つまり、研究、作付、製品化、流通、販売だ。

米以外の穀物

今日では、米食中心の日本人は減りつつある。かつて、米と小麦の二毛作は日本中の田圃で行われていた。今こそ、これを復活させるべき時だ。

香川県農業試験場において、讃岐饂飩(うどん)用の新品種が開発された。「さぬきの夢2000」と「さぬきの夢2009」だ。これらにより、製粉会社、製麺会社、うどん屋のすべてが潤う。

完全養殖

日本人は魚介類が好きだ。和食は世界へ広まりつつある。しかし、研究者の間では、資源枯渇の懸念が指摘されている。

クロマグロの完全養殖は、近畿大学水産研究所により、商業化された。

ニホンウナギの完全養殖は、水産総合研究センターウナギ統合プロジェクトチームにより、実現された。

砂漠緑化産業

巨大な穀物商社がある。世界中で大規模経営の農業従事者に設備を提供し、作物を買い付けている。日本企業は、これに倣うべきだ。宇宙を除き、地球に残された、人類最後のフロンティアは砂漠だ。砂漠を生産緑地や林に変えるのだ。地元で雇用が増え、乾燥化が進む中東地域に多い、紛争の種も減る。

日本企業は海水淡水化装置の技術を有している。灌漑設備、種苗、それぞれの技術を持つ企業が提携し、clean technologyの可能性を秘めた海外へ進出を果たすのだ。勿論、この合弁事業には、 Power to Gas の技術を持つ企業も参加すべきだ。

従来のプランテーション農業の弊害は作物の病気が蔓延することにある。だから混植すべきだ。バナナやナツメヤシなどばかり、1種類を育てるべきでない。

塩害には水田が役に立つ。畦で囲んで水を張り、浮き上がった塩分を排水路へ流す。畦を作る機械を日本企業は造れる。また、他の除塩技術も導入すべきだ。

家電産業

日本のモノカルチャー経済は、良きにつけ悪しきにつけ、家電産業を中心とした製造業より成る。

家電メーカーの合併

家電メーカーの合併促進は、国際競争力をつけるために必要だ。

SmartTV

新聞、ラジオ、テレビ、電話等の、あらゆるサービスがインターネットに統合されつつある。SmartTVはそこへの入り口の一つとなるだろう。

優れたOperating System (OS)が、SmartTVの開発の成功に必要だ。そのために、Ubuntuを推薦する。デスクトップPC、スマートフォン、タブレットPC、そしてSmartTVでのファイルのやりとりや、その他のLAN上のサービスに適している。また、優れたパッケージ・マネージャーにより、依存関係を解決してくれる。

勿論、OSは、Google Androidのように、クラウド・サービスに同期する為のApplication Programming Interface (API)を持つべきだ。

提案は他にもある。使いやすさを考えるならば、ゲーム機はsmartTVの中に統合されるべきだ。つまり、ゲーム用のlibraryやAPIを、smartTVのOSにインストールしてしまうのだ。

SHARPのような企業は、眼鏡の要らない3次元のディスプレイを、自社の強みとして重視すべきだ。これらの企業は、カメラや他の放送機材を無償でTV局に提供すればよい。そうすれば、デ・ファクト・スタンダードとなれるだろう。

コンピューター・ゲームの開発者は、教育用途のゲームに注力し、教材を制作する会社と提携するとよい。日本は出生率が低いが、インターネットに国境はない。

モバイル端末

smart watchのディスプレイはvirtual keyboardを使うには小さすぎる。そこでprojection keyboardか、interactive projectorを搭載すべきだ。そうすれば、手の甲を、キーボードやタッチスクリーンとして、ちょうど電子黒板のように使用できる。

更に、将来のsmart watchは、骨伝導の電話を搭載し、電話をかける手のサインで本当に電話をかけられるようになるだろう。

日本企業は、NFC、iBeaconや、生体認証の国際的な戦略提携を結ぶべきだ。店、レストラン、ATM [4] 自動販売機、駅の売店、改札機、公共サービス等の世界市場が期待できる。

次世代のコンピュータ

日本企業は将来性のあるコンピュータを製品化すべきだ。

Ink-jet film computer[5]は小さくて薄い端末に最適だ。

量子コンピュータは、巨大なクラスターで出来たスーパー・コンピュータよりも将来性がある。クラスターは、コンピュータ1単位あたりの処理能力を向上させるべきだ。

Open strategy

日本企業がopensource、open standard、open architectureの戦略を採用すれば、鬼に金棒だ。Eric Steven Raymond氏の有名な文書を参照されたし。[6]

NEC PC-98シリーズや、NTTドコモのi-modeの教訓を忘れてはならない。いくつもの小さなパイを喰うよりも、もっと大きなパイを分かち合った方が得なのだ。

実例を挙げると、Amazonのような多くの企業がOpenStackの開発に参加した。そして質の高いクラウド・サービスを提供している。提携と競争は明確に分けるべきだ。

製造業

大量生産の時代は既に終わった。

ぴったり合う衣服や靴

Custom-fitの概念は、 3Dスキャナー、CAD/CAM/CAE[7]、rapid manufacturingの使用により、衣服、眼鏡、靴の製造に適用できる。cutting plotterに渡す型紙の微調整が容易だ。誰も、丈の合わないブカブカのズボンを穿きたくはない。おしゃれとして穿くのなら別だが。

回転寿司

タッチパネルで注文できる、回転寿司方式が組立作業に導入されれば、屋台方式(セル生産方式)同様に便利なものとなるだろう。ライン生産方式は製品そのものを運ぶ一方、回転寿司方式は製品の部品を運ぶ。

商品開発

Point of sale (POS)とsupply chain management (SCM)は供給側の視点で組まれたシステムだ。需要側の視点、つまり、商品開発において、これを利用することが重要だ。今、流行りのビッグ・データ分析には、データベース管理と、それをアルゴリズムや統計で処理する能力が必要となる。誰もが統計学を知っているとは限らないので、例えば、誰でも分かるようにグラフ化するdata mining用の、SCMと直結したソフトウェアが必要となる。

戦争後の日本の人口ピラミッドはいびつだ。ベビーブーマーと、その子供の世代の人口比率が高い。それにも関わらず、企業は新卒採用に、こだわっている。雇用の年齢制限や、定年制を見直すべきだ。

正社員として雇用されなかった者は、職歴がない。能力があるにも関わらず、面接で差別される。マスメディアは、「ニート」という差別用語を用意し、無職者を侮辱する。

企業の面接担当者は、その人の能力を見抜く目を持つべきだ。文系出身者だからプログラミングが出来ないと思い込んでいるのは、面接担当者がコードを読めないからだ。偏見を捨て去るべきだ。アメリカの企業にはCIO [8]CTO [9]という役職がある。日本企業の取締役にも、ウェブサイトの構築、プログラミングやサーバ管理能力のある者が加わるべきだ。

交通

3空港連携

埼玉高速鉄道か、つくばエクスプレスを茨城空港まで延伸すべきだ。羽田空港、成田国際空港、茨城空港の相互運用性を向上させるために必要だ。

リニアモーターカー

リニアモーターカーは国際間長距離輸送に向いている。各国に採用されるための受注競争に明け暮れるよりもむしろ、日本企業は国際鉄道会社の設立を提案すべきだ。

医療

人工骨

生体吸収性の人工骨は虫歯等の歯科治療にも応用できるはずだ。



[4] FUJITSU FRONTECH はNFCに対応したATMヨーロッパで打ち出した。

[6] Eric S. Raymond's Home Page

私は山形浩生氏による翻訳を読んだ。

  • 伽藍とバザール

  • ノウアスフィアの開墾

  • 魔法のおなべ

[7] Computer Numerical Control (CNC)の工程

  1. Computer-Aided Design (CAD)

  2. Computer-Aided Manufacturing (CAM)

  3. Computer Aided Engineering (CAE)

[8] Chief Information Officerの略

[9] Chief Technology Officerの略