市場原理と自然淘汰

日本には、訳の分からない、新卒採用限定という雇用慣行があることは、前書で指摘した。職歴のない者は採用されない。職歴差別が続いているのだ。遠い過去の話ではない。就職氷河期世代は、生活に余裕がなく、結婚できずに結婚適齢期を過ぎる。それはまさに、静かなる虐殺だ。人口はますます減るだろう。企業経営者や人事担当者は、己の首を自らの手で締めていることに気づかない。彼等は、やがて知ることになる。明日は我が身だということを。就職氷河期世代に対する就職差別を無くさない限り、政府がどんな政策をしようと、問題は解決されない。ニートや、パラサイト・シングル、引きこもりと呼んで我々の世代を馬鹿にする人々は多い。バラエティ番組やドラマで差別を助長しても、貧困に起因する自殺や犯罪の増加からは目を背けられない。親が子を殺し、子が親を殺す時代になっても、彼等は嘲笑を続けるのだろうか?川辺や公園のブルーシート、駅のコンコースに一日中過ごす人、ネットカフェが最後の棲家になった人、あなたは見てみぬふりを続けるのか?

TBSの「林先生が驚く初耳学!」というバラエティ番組をはじめ、ドラマに至るまで、新たな差別階級を生み出し、笑い物にしているのだ。日本のマスメディアは物事の解決に貢献しようとは思わない。本来、彼等は国民の目となり耳となり、口であるべきなのに。経済政策の犠牲者を個人のせいにしているのだ。あの番組は日本社会の縮図だ。

我々には請願権も、選挙権も、被選挙権もある。氷河期世代ユニオンのように、政治活動をしなければならない。世の中には、「悪法も法」と言って毒を飲んだソクラテスのような、お人好しは稀だ。古今東西を問わず、悪政を敷く政府は民衆により打倒されたのだ。日本は民主主義国家なのだから、就職氷河期世代の数の力で状況を変えるしかない。笑われ馬鹿にされ、嘲笑を悔しいと思う者は、黙って従わず、行動すべし。

失業者を増やすまいと、日本政府は税金を投入してでも倒産を防いできた。だが、大企業が優遇されれば、独占や寡占は維持され、新しい企業は育たない。新しい商品もサービスも生まれにくくなり、人口減少や個人所得減少による消費低迷から価格競争に陥り、収穫逓減となる。日本は長期間、デフレーションに陥っている。イノベーションの盛んな、収穫逓増となる、本来の正常な経済状態に戻すには、むしろ、倒産を防がないほうが得策だ。それは、たとえ大銀行や証券会社であっても例外とすべきでない。

日本銀行やGPIFが、投資信託で株価を買い支えても、株式市場に上場する企業しか恩恵を受けない。本当に必要な、新規産業の担い手となる事業者に資金は行き渡らない。むしろ、独占や寡占を悪化させる。低金利で、メガバンクは投資信託を顧客に売ることばかり考える。彼等は手数料収入が目的で、顧客の資産運用など、どうでも良いのだ。銀行の本分は本来、産業の育成にあるはずだ。彼等がその役割を担えないのならば、クラウド・ファンディングやベンチャー・キャピタルを優遇し、育てた方が、新規産業と、それに伴う雇用を創り出す上で役立つはずだ。

GDPにおける重要な要素は消費だが、減税で消費が伸びるのは一時的であることは、バブル経済崩壊後の長い不況に苦しんだ日本人なら誰しも経験済みだ。トリクルダウンが役立たずなのは、多くの経済学者が指摘している。また、将来に期待して、一時的に設備投資も伸びるが、過剰設備に陥ることもまた、懸念されることだ。

中産階級の没落と、消費の落ち込みを指摘するMr. Robert Reichのように、労働の外部不経済、とりわけ、中産階級の就労対策には重要な点がいくつかある。

  1. 職業訓練

  2. 創業支援

  3. 安定した正社員での雇用

COVID-19のパンデミック以後に続く企業の大量絶滅を乗り切るには、雇用を増やすための創業支援が欠かせない。煩雑な登記の手続きや、多額の会社設立費用は馬鹿げている。ニュージーランドやフィンランドのようにすれば良い。 3つ目は、企業倒産や競争の激化があれば、難しい目標となるだろう。1と2を解決すべく、次章では江戸時代の経済政策を紹介したい。