労働市場におけるピグー税

ラスト・ベルトは日本の製造業との競争に破れた企業が撤退した後に残された地域だ。市場原理は競争であり、企業は費用を安く抑えようとする。給与を引き下げたり、人員削減を行う。或いは、人件費を削るため、より安い給与で雇える海外へ製造拠点を移す。

日本においては政府が無理矢理、市場介入し、潰れるべき企業が生き残り、随意契約により、政府部門への新規参入者を拒む、歪められた市場経済となった。日本では新しい企業や産業が育ちにくく、雇用が増えなかった。就職氷河期世代は正規雇用の機会を得られず、新卒採用以外で職歴がない者は正社員として雇ってもらえない。

この就職氷河期世代の問題は、海外では知られていないようだが、私自身が経験してきたことであり、同世代ならば、その深刻さを知っている。なぜ、日本は少子化が続くのか、海外の経済学者は疑問に思うだろう。答えは簡単だ。日本で最も人口の多い、団塊ジュニア世代、つまり我々が、正社員として雇われる機会を失い、低賃金労働を押し付けられ、結婚できず、子供を持てなかったからだ。

人口が減れば、海外労働者を受け入れれば良いと主張する者がいる。傷口を塞がないで輸血するようなものだ。労働者の権利を法律の改悪により奪ったまま、低賃金で働かせるために海外から労働者を連れてくることは問題を悪化させる。 首都圏移住労働者ユニオンが指摘する通り、 ILOが技能実習制度を強制労働と見做し問題視したが、 少なくとも、外国人技能実習生には日本人と同等の権利が与えられなければならない。法改正が不十分だ。covid-19の感染拡大により職を失い、帰国すら出来ない人々がいる。彼等も就職氷河期世代と同様、被害者なのだ。簡単に解雇でき、低賃金で長時間働く、都合の良い労働者はどこにもいない。

日本経済新聞やテレビ東京が指摘しているように、日本では大学院修了者の能力を評価しない。修士や博士の活躍する職場がないのだ。海外政府のように、大学院修了者を優遇する公務員採用制度があれば、民間企業もそれに倣うだろうが、そのような動きは皆無だ。

環境経済学における外部不経済の内部化は、市場原理を活かす方法として有効だ。何人も市場原理を否定することは出来ないが、外部不経済をそのままにしている限り、如何なる経済政策を執ろうとも、問題が悪化することもまた否めない。

ピグー効果は役に立たないが、ピグー税は有効だ。労働問題はまさしく外部不経済だ。環境経済学には、ピグー税やボーモル・オーツ税という考え方がある。これを、労働の外部不経済に応用すればよいのだ。雇用問題は環境破壊に似る。従って、ピグー税は、その市場内部化に最適だ。具体的には、法人税減税は、当該企業の正社員と非正規社員の比率により決めるべきである。これは正社員を増やす刺激策となる。また、これは前出のSDGsに基づいた認証制度と共に適用されるべきだ。現在のような、補助金制度は、歳出が増すだけで、効果は薄い。

正社員には、給与以外の様々な待遇がある。日本の法律では、正社員は簡単に解雇されない。竹中平蔵氏の主張する「雇用の流動化」は、まともな暮らしの出来ない低賃金労働を強制してきた。日本に必要なのは、新規産業の担い手の新興企業を増やす政策であり、独占企業や寡占企業の排除、つまり、「企業の流動化」だ。そうしなければ、雇用が増加することはない。労働者に負担を強いず、痛みは企業が負担すべきだ。