アメリカ合衆国のトランプ大統領誕生には、ラストベルトの支持者の関わりが大きいと言われる。日本の高度成長期、日本の製造業との競争に破れたアメリカ合衆国の製造業では、多くの失業者が生まれた。何世代にも渡り、築き上げられてきた社会が崩壊し、人々は移住したか、弱者が取り残された。
日本では、円高が進み、バブル経済の崩壊を経て、製造業の海外移転が進んだ。中華人民共和国やASEAN諸国は、下請けから脱却し、特に中国は、世界経済の中心となりつつある。だが、中国経済もまた、トランプ大統領の仕掛けた、アメリカ合衆国との貿易紛争に悩まされ、日本のバブル経済崩壊のような事態に陥りつつある。バイデン政権に移行してもそれは変わらない。
まさに、不幸の連鎖だ。国際企業は、安い労働力を求める。それにより技術移転が進み、進出先の産業が育つのは良いだろう。だが、撤退後に取り残された失業者はどうなるのか?規模の経済の負の側面について、特に農業や製造業において、安易な解決策はない。
アメリカ合衆国が為替操作国として貿易摩擦を解消しようとするのは、物価や賃金を不当に低く抑えるためと思っているからであり、かつての日本や現在の中華人民共和国が槍玉に挙げられてきた。だが、そうとは言い切れない。原因はそればかりではないのだ。国際企業は、マハトマ・ガンディが反対したかつての植民地支配のように、安く売ることしか考えない。大量生産・大量消費は労働の外部不経済を及ぼし、職を奪う国際企業がアメリカ合衆国にとっての真の敵なのだ。彼等の行為は市場経済と自由貿易を悪用した収奪だ。この外部不経済を放置すれば、一層寡占化が進むだろう。
アメリカ合衆国のみならず、労働基準法の未整備な国から輸入するのは、貧しさの輸入になる。物価が安く低賃金なのは、やがて差が埋まるが、労働者が法律で守られない国に企業が製造拠点を移せば、その国の労働者が不幸になる。報道では物価と賃金の安さばかり強調されるが、実際は中華人民共和国の農民工のように、使い捨てにされる労働者の犠牲を生んでいるのだ。このような場合は法律の未整備な国への関税を強化するか、国際企業への制裁をし、労働者の保護を促すべきだ。自由貿易において、関税の税率は低い方が良いが、国内外の労働者を不幸にしてまですることだろうか?
実際、関税を課すのは、環境関税と同じく、報復関税を課されるので難しいだろう。ならば、Nestleが参加する認証 [2][3] のように、環境に優しく、労働条件の整った条件で経営する国際企業を認証し、関税の税率で優遇するのはどうか。これならば、従来の税率を変更せずに運用できる。国連の掲げる、持続可能な開発目標(SDGs)に基づいた認証制度を設定し、国際企業の外部不経済内部化のために、関税率や法人税率で認証企業を優遇するようにすれば、不公平は減る。外部不経済の点数化だ。
NHKでは大河ドラマ「青天を衝け」に関連して2021年04月03日にBS1スペシャル「渋沢栄一に学ぶSDGs“持続可能な経済”をめざして」を放送した。その中で渋沢栄一が経営に関わった企業の取り組みについて紹介されている。市場原理は厳しい。弱肉強食であるが故に外部不経済が発生する。社会貢献する企業が優遇される税制でなければならない。
産業の空洞化が語られて久しい。日本の製造業は下請けまで海外へ移転したが、失われた雇用を吸収する産業は育っただろうか?同じことは日本との競争に負けたアメリカ合衆国のラストベルトにも当てはまる。プログラマー達が活発に創業して経済が活性化した地域と映画『ノマドランド』のような地域との差は歴然としている。競争に破れた土地に賑やかさを取り戻すには、創業支援しかない。