天気図と兼業農家

比較優位の条件は、常に変わるが、都市化の条件はやすやすと変わらず、常に一方通行だ。近年では、安全を求めて難民がヨーロッパへ押し寄せている。これも都市化と仕組みは変わらない。

天気図の低気圧と高気圧のように、安全、物価、賃金、立地条件により、経済の盛んな地域にはムラがある。それは、都市化の原因であり、貧困や紛争を逃れてやって来る難民問題の主原因でもある。都市化は急激な人口増加と、都市部での失業を招く。これらの問題を放置すれば、将来に失望した人々が自暴自棄になり、テロや犯罪に手を染める割合が増える。被害者は襲われやすい、所謂ソフトターゲットだ。増幅された差別感情はヘイトクライムを招く。日頃目にする事件の多くは、貧困や差別に起因する。

これらの問題の解決には、農村部の安定が不可欠であり、経済政策の立案と実行を直ちに進めなければならない。スウェーデンやロシアでは、郊外に別荘を持ち、週末や休日に農作業をする。ロシアでは経済の混乱期に役立った。日本においては、過疎化対策に中枢中核都市を[5]進めている。

スウェーデンなどの北欧諸国では、サマーハウスという別荘を持っている。ソビエト連邦崩壊後のロシアの混乱期に、都市部のロシア人は所有していたダーチャと呼ばれる別荘で農作物を栽培し、糊口を凌いだ。 日本でも、地方都市を中心とした過疎化対策「過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業」がある。

農業法人設立支援は必要だ。だが、小規模事業者を否定し、大規模にすれば問題は解決するだろうか?戦後のGHQによる、土地開放や財閥解体に逆行する行為ではないか?同様に日本では、大規模小売店舗立地法以後、全国の商店街はシャッター商店街と化し、大手流通業者が最終消費者まで届く品物を牛耳っている。最近は家電開発にまで進出している。農協いじめをしても問題は変わらない。農業に独占企業や寡占企業が生まれるだけだ。ネットショッピングが普及しつつある今日、流通業の寡占は崩れつつある。ステーブルコインの活用も良いだろう。インターネットの活用により、商品化のみならず、小売や流通にも積極進出する農業法人を育成することが肝要だ。

明治時代に失職した士族の多くは開墾に従事し帰農した。自給自足により困窮から免れたのだ。また、戦後の高度経済成長期を支えたのは、農村から都市部へ移住した労働者と兼業農家だ。円高ドル安が進行して、内需主導型経済になり、消費を支えたのは彼等とも言える。農業の効率化はGHQによる農地解放以前の大規模所有を可能にするが、良いことばかりではない。兼業農家は自家消費で収入を補うので、安定した消費をしてくれる。その利点を活かすべきだ。例えば、失業対策に、都市部の農業訓練を受けた希望者に、政府が買い上げた耕作放棄地を分配する方法だ。これは過疎化対策にもなる。

いずれにしても、内需主導型経済において重要なのは、消費だ。投資は将来への支出であり、失敗すれば過剰設備となる。従来型ケインズ政策では公共事業として、道路や公共施設ばかりが建設され、潤うのは建設業者のみだ。上記の政策を実行すれば、生活に余裕のある消費者が増え、経済対策として大きな効果があるはずだ。重要なのは、政府支出に依存する大企業を温存させることではなく、国民の生活の向上であり、生活が安定すれば、生活必需品以外にも消費が拡大していく。

環境関税がヨーロッパで「国境炭素税」として実行に移されつつある。トランプ大統領の台頭に見られる通り、環境を悪化させても罪悪感を感じない国家元首が選挙で選ばれる世になった。地球温暖化は、相次ぐ自然災害を招き、もはや多国間合意を待っていられない。2019年には世界各地で森林火災が頻発した。日本には巨大な台風が襲来した。世界各国は、環境関税をもう一度見直すべきだ。

だが、関税を課すと、報復関税が待っている。ならば、国単位ではなく、企業毎に関税率を変えればよいのだ。前述の認証制度に基づく課税制度を、経済協定として結べば、環境に良いと認証された企業が税率で得をする。発展途上国には、労働条件が劣悪な国々がある。製造業の優位性は、物価や賃金で決まるが、彼等は低賃金と長時間労働を強いるのだ。それらの是正のためにも世界で統一された基準に拠る経済協定は必要だ。これがインセンティブとなり、労働の外部不経済を是正するだろう。国際経済の市場原理をうまく利用したものにすれば、必ず効果はある。また、Socially responsible investing (SRI)やEnvironmental, Social, and Corporate Governance (ESG)に基づく機関投資家の税制面での優遇もこの経済協定に含まれるべきだ。Principles for Responsible Investment (PRI)を法人税の税率に反映する協定を各国間で結ぶべきだ。国連のSDGs達成のために、この経済協定は必ず役立つだろう。

2019年現在、中東やアフリカの内戦やテロを逃れて難民がヨーロッパへ押し寄せている。もはや、ヨーロッパで受け入れられる許容人数を超えている。世界各国で難民受け入れを分担しなければならない。ヨーロッパ各国で極右政党が台頭しつつある。難民の流入は、ヨーロッパ住民の職を奪うと看做されているのだ。このような政治の不安定を招かないためにも、特に日本が、率先して難民を受け入れるべきだ。